運動指導者として、また生理学者として会話の中で筋肉の重要性を理解して頂くのが難しい課題の一つだと思います。

心臓や脳が必須であることは明確ですし、逆に体脂肪の過剰な増加は健康にとってマイナスであることは皆知っていることだと思います。

でも、なぜ筋肉が重要なのか。。?

もちろん、歩行動作を含む日常生活を送る上で筋肉は必須ですが、それが少なくなることのデメリットについては他の臓器ほど意識されていないように思います。

(筋肉が減ると転倒リスクが上がります!といっても、普通に歩行できている高齢者の方々には今ひとつ響かないようです。。)

その結果、「筋トレして筋肉を強く大きくしましょう!」と言ってもあまり行動に移してもらえない。

なぜ筋肉が重要なのか。

今日は別の観点からその重要性をお伝えしたいと思います。

(今回は特に専門用語が多くて、一般の方には多少難しいかもしれませんが、筋肉の重要性について是非知って頂きたいです。)

 

結論から述べますと、筋肉が生命の維持に必須である理由は、「筋肉がアミノ酸の貯蔵庫である」からです。

 

筋肉から供給されるアミノ酸が必要とされるのは主に以下の2つのプロセスです(下図参照):

1) 筋肉のアミノ酸は脳や心臓や皮膚などの臓器・組織の維持に必要

2) 筋肉のアミノ酸は低血糖を予防するために必要

 

順番に説明していきましょう。

1) 筋肉のアミノ酸は臓器・組織の維持に必要

生命を維持するために必要な脳や心臓や皮膚などの全ての臓器・組織を構成するタンパク質は古いものを壊し、新しいタンパク質として作り替える代謝が24時間絶えず続いています(先日お話しした筋肉の代謝と同じですね)。

これらの組織が新しくタンパク質を合成するのに必要な材料として、血液中のアミノ酸を利用します。

食後においては、消化器官から取り込まれたアミノ酸が血液によって運ばれ、アミノ酸が必要とされる組織に取り込まれます。

興味深いことに、通常の日常生活において、空腹時においても血液中のアミノ酸の濃度はほぼ一定に保たれています。

(実際、数日以上の断食をしても血中アミノ酸濃度はほとんど変化しません)

 

空腹時には筋肉を構成するタンパク質が分解され、血液中にアミノ酸を放出します。

つまり、この筋肉を分解するというプロセスによって、空腹時においても血中のアミノ酸の濃度を一定に保ち、全身の組織にアミノ酸を供給し続けることができるのです。

 

2) 筋肉のアミノ酸は低血糖を予防するために必要

空腹時に血糖値が低下し過ぎないように肝臓と連携プレイをこなすのも、筋肉の役割です。

通常は肝臓に蓄えられている糖質の供給源であるグリコーゲンが血糖値を維持します。

しかし、空腹状態が続くと、血液中のアミノ酸は肝臓で糖新生という代謝経路を介して、糖に変換されることで、血糖調節をサポートします。

つまり空腹時に筋肉のタンパク質分解が増加するもう一つの理由は、血糖値の低下を防ぐのにアミノ酸が必要とされるからです。

 

通常、食後に筋肉のタンパク質合成が急激に高まるのは、空腹時に失われたタンパク質(分解され放出されたアミノ酸)を補うためです。

ですので、もし空腹の状態が続いて、タンパク質/アミノ酸が補給されないと筋肉はどんどん失われてしまいます。

(長期的な饑餓の状態による死因(他の死に至るような重病を除く)は、筋萎縮に伴い、糖新生に必要なアミノ酸を筋肉の分解から供給できなくなることが理由である、という報告もあります。)

 

残念なことに、脂質や糖質と違って、体内は余分なタンパク質を保持することができませんので、筋肉を維持するためには常に食事からタンパク質を摂取することが必要なのです。

 

筋肉が無いと何が困るのか?

単純に、筋肉無しでは人間は生命を維持することができないのです。

そして、その筋肉を維持するためにも、食事からのタンパク質の摂取は必須です。

 

 

参考文献:

1. Cahill GF Jr. Starvation in man. N Engl J Med :668 –75,1970

2. Felig P. The glucose-alanine cycle. Metabolism ;22:179–88,1973

3. Winick M. Hunger disease. Studies by the Jewish Physicians in the Warsaw Ghetto. New York, NY: Wiley & Sons,115–23,1979