食事の摂取(特にタンパク質)が筋肉の合成そして筋肉量を維持するために重要である事は以前のブログでも紹介しました。

しかし、加齢に伴って食事摂取に伴う筋肉の合成機能が低下してくることが多くの研究グループによって報告されています。つまり高齢期に若年期と全く同じ食事を摂取したとしても若い頃と比較して筋肉の合成率が低くなるのです。

この加齢に伴う栄養障害は “Anabolic Resistance”(同化抵抗性)と呼ばれています。

これまでの研究で加齢に伴う二つの同化抵抗性が確認されています。

1)筋肉の合成に関わるインスリン抵抗性

インスリンはホルモンの1種で食後血糖値が上昇すると筋肉への糖の取り込みを増加することで血糖値をコントロールします。

またインスリンは糖の取り込みだけでなく、筋肉のタンパク質代謝を調節(合成を増加させ分解を抑制することでタンパク質の出納バランスをよりプラスにシフトする)する働きも有しています(下図)。

 

このインスリンによる筋肉の同化作用の刺激には主にインスリンの血管拡張作用が関与しています。食後に分泌されるインスリンは、血管を拡張させることで血液の流れを増加させます。

筋肉への血流量が増加すると、筋肉の合成に必要とされるアミノ酸の輸送量(単位時間あたりに運び込まれる量)が増加します。つまり、インスリン刺激でより多くのアミノ酸が筋肉の中に運び込まれることで、筋肉の細胞内のアミノ酸の濃度が増加し、結果的に筋肉の合成を高めるのです。

加齢に伴いこの食後のインスリン刺激による血管の拡張機能が低下することが明らかとなっています。

通常であれば糖質を含む食事を摂取した後に血糖値が上昇し、インスリンが分泌されれば筋肉への血流量の増加から、より多くのアミノ酸が筋肉に運び込まれます。しかし、高齢者ではインスリン刺激による血流量の増加が抑制されているため、結果として食後の筋肉の合成速度が若年者ほどは増加しないのです(下図)

 

2)タンパク質/アミノ酸に対する感受性(ロイシン抵抗性)

加齢に伴うもう一つの同化抵抗性は、タンパク質やアミノ酸に対する筋肉の同化作用への抵抗性です。タンパク質が筋肉の合成を刺激することは以前のブログでもお伝えしました。

 

しかし、若年者と高齢者を比較した場合、タンパク質や必須アミノ酸(特にロイシン)を摂取した後の筋肉の合成速度が若年者と比較して高齢者で低下していることが多くの研究グループによって報告されています。

 

つまり同じ量のタンパク質を食事で摂取したとしても、高齢者の筋肉の合成は若年者ほどは増加しないのです。この抵抗性の機序は明確にはなっていませんが、主に分岐鎖アミノ酸のロイシン(筋肉の合成を直接刺激するアミノ酸)に対する抵抗性が原因あることが示唆されています。

 

結果的に高齢者では筋肉の合成を最大に高めるためにはより多くのタンパク質を摂取する必要があることになります。

実際に、Mooreらの研究において、空腹時の一回のタンパク質(卵あるいはホエイプロテイン)の摂取量と筋肉の合成速度の関係性を評価した結果、筋肉の合成速度を最大限に高めるために必要なたんぱく質の摂取量は、若年者では0.24g/kg体重であったのに対して、高齢者で一回の摂取に0.4g/kg体重が必要であることが示されました(下図)(注1)

「日本人の食事摂取基準2015」では、1日に摂取すべきタンパク質の推奨量は成人男性では0.9g/kg体重、高齢者ではさらに高く、70歳以上の場合は1.06g/ kg体重が推奨されています。これは筋肉や他の臓器を含む体内のタンパク質全てを維持するために必要なタンパク質の摂取量です。

欧州静脈経腸栄養学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism)は健常な高齢者において1.0~1.2 g/kg体重のタンパク質摂取を推奨しており、サルコペニア予防のためにも高齢者のタンパク質の摂取量が不足しないよう注意を促しています。

 

次回のブログではこれらの「同化抵抗性を改善する方法」についてご紹介します。

 

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(注1)このタンパク質の必要量は安静空腹時の状態です。つまり運動をしていない状態で、かつ摂取しているタンパク質も動物性で吸収率の高いものを用いて評価しています。脂質・糖質を含む通常の食事を摂取した場合、胃からの排出速度が緩やかになるため、実際に筋肉の合成を最大限に高めるタンパク質量はここで提示されている値よりも高くなる可能性があります。

参考文献:

  1. Fujita, S., et al., Effect of insulin on human skeletal muscle protein synthesis is modulated by insulin-induced changes in muscle blood flow and amino acid availability. Am.J.Physiol Endocrinol.Metab, 2006. 291(4): p. E745-E754.
  2. Rasmussen, B.B., et al., Insulin resistance of muscle protein metabolism in aging. FASEB J., 2006. 20(6): p. 768-769.
  3. Katsanos, C.S., et al., Aging is associated with diminished accretion of muscle proteins after the ingestion of a small bolus of essential amino acids. Am J Clin Nutr, 2005. 82(5): p. 1065-73.
  4. Moore, D.R., et al., Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2015. 70(1): p. 57-62.