前回のブログで加齢に伴って食事摂取に対する筋肉の合成作用が低下する現象(Anabolic Resistance: 同化抵抗性)について説明しました。

同化抵抗性とは、「糖質摂取に伴うインスリン分泌に対する同化抵抗性」、そして「タンパク質/アミノ酸の摂取に伴う筋肉の合成作用に対する抵抗性」です。

この2つが組み合わさり、食事摂取後に増加するはずの筋肉の合成が高齢者では低下しているのです。

食事摂取で筋肉の合成が刺激できなくなると、筋肉量は低下します。つまり食事に対する同化抵抗性はサルコペニアを引き起こす要因でもあります。

ではこの同化抵抗性に対して、日常生活でどんな対策が可能なのでしょうか?

その答えはもちろん ”運動”です!

①有酸素性運動

②レジスタンス運動

この二つの異なる運動形態を実施することで、食事による筋肉の合成を最大限に高めることができます。

 

①有酸素性運動

食事での糖質摂取に伴い分泌が増加するインスリンは筋肉の合成も刺激します。

インスリン刺激に対する同化抵抗性は有酸素性運動で改善できることが研究で明らかになっています。我々が行った実験では、高齢者の方々に45分間の早歩き(最大心拍数の70%程度の運動強度)を一回実施してもらうと、翌日のインスリン刺激による筋肉の合成能は若年者のレベルまで回復しました(下図)。

 

つまり加齢と共に食後のインスリンに対する同化作用は低下しますが、ウォーキングやジョギングなどの有酸素性運動実施すればこの食事に対する同化作用が改善し、糖質摂取に伴う筋肉の合成を向上させるのです。

有酸素性運動のみで筋肥大を引き起こすことは困難ですが、加齢に伴うインスリン抵抗性を改善することで、食事摂取による同化作用を改善し、サルコペニアの予防に繋がると考えられます。

日常的なウォーキングやジョギングは体力の維持・向上の観点からだけでなく、栄養摂取の視点からも高齢者にとってはとても重要ですね。

 

②レジスタンス運動(筋トレ)

もう一つの同化抵抗性である「たんぱく質摂取後の筋肉の合成に対する抵抗性」は筋トレによって改善できます。

以前のブログでも紹介しましたが、一回の筋トレはその後のタンパク質摂取によって刺激される筋肉の同化作用をさらに高めることが明らかとなっています。この作用は加齢に関わりなく生じます。

そしてその感受性の改善効果は少なくとも運動後24時間は持続しますので、週2〜3回の筋トレを継続的に実施すれば、その間の食事に対する筋肉の合成作用を高めた状態を維持できると考えられます。

現在のところ、なぜレジスタンス運動によってタンパク質/アミノ酸刺激による筋肉の合成作用が増加するのか、その詳細な分子機序は明らかではありませんが、今後研究が進めば、サルコペニア予防に向けた理想的な筋トレと栄養摂取の組み合わせが提示されるかもしれません。

どちらにしても、筋トレ自体も筋肉のタンパク質合成を増加させる作用を有しているので、高齢者にとって筋トレと3食の食事におけるタンパク質摂取は切っても切り離せない関係にあると言えるでしょう。

 

以上のことから、サルコペニア予防には有酸素性運動とレジスタンス運動を組み合わせが最も理想的です

例えば筋トレの種目間に簡単なステップ運動などの有酸素性運動を組み入れた「サーキットトレーニング」は同化抵抗性の二つの要因を同時にアプローチできることから、高齢者にとって有効な運動プログラムであると言えるでしょう。

 

参考文献:

  1. Fujita, S., et al., Aerobic exercise overcomes the age-related insulin resistance of muscle protein metabolism by improving endothelial function and Akt/mammalian target of rapamycin signaling. Diabetes, 2007. 56(6): p. 1615-1622.
  2. Burd, N.A., et al., Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr, 2011. 141(4): p. 568-73.